『イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした』
崩れた日常
救急車の中で、美香奈は毛布にくるまれたまま、静かに目を閉じていた。

右肩と手首には応急的な固定が施され、
救急救命士が無線で受け入れ先の病院とやり取りしている声が、遠く聞こえる。

「血圧正常、意識清明。四肢の可動域に異常はなさそうです」

事務的な報告の中で、自分が“処理されていく”感覚があった。
安心できるはずなのに、心の奥は妙に冷たかった。

(……私、狙われたんだ)

偶然ではない。
誰かが意図的に、あの夜、そこにいた――その確信だけが、胸を締めつけていた。

パトカーで後を追ってきた神谷が、病院の前で待っている姿が窓の外に映る。

制服のまま、腕を組み、表情は硬い。
でもその目は、どこか苦しげだった。

(神谷さん……)

呼びかけることもできず、ただ見つめた。
けれど、自分がいま最も必要としている“安全”が、あの姿に重なって見えた。

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