大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
プロローグ
「――AIRPLUS 031. Go around due to separation. Turn right heading 310. Climb and maintain 3,000」
「Go around. AIRPLUS 031」

 先行機との管制間隔維持のため、ゴーアラウンド(着陸復行)してください。という管制の指示を、隣に座った機長が復唱する。
 オートパイロットは解除だ。朋也(ともや)は着陸やり直しのため操縦桿を握り直した。
 指示どおりに310度へ右旋回し、高度三千フィートまで上昇し維持する。
 羽田空港は国内でも随一の混雑空港だ。そのため、先行機との間隔が詰まりすぎると今のようにゴーアラウンドの指示が飛ぶ。さらに四千フィートまで上昇するようにという指示に従った。
 この便のPF(Pilot Flying)は副操縦士である朋也であり、機長の名取(なとり)から操縦を任されている。
 機長は今回はPM(Pilot Monitoring)を務めており、管制との通信を行っていた。
 朋也がこれまで何度か組んだことのある名取は、副操縦士にも積極的に操縦させる方針だ。おかげで、朋也も存分に経験を積ませてもらっている。
 午後八時すぎ。
 眼下に広がる東京の夜景は、十月の澄んだ空気も相まって、万華鏡を覗いているかのような気分になる。煌びやかで美しい。
 上空で待機していると名取が苦笑した。

「まったく。沖形(おきがた)君の操縦は、何度見ても澄ましていてかわいげがありませんね。通常、沖形君くらいの歳のパイロットは、ゴーアラウンドの指示が来たら、多少は動揺するものなんですが」
「褒め言葉として受け取っておきますけど、アプローチはこれからですよ」
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