大嫌いなパイロットとのお見合いはお断りしたはずですが
一章 合わないエリートパイロット
 十月下旬の早朝は、いつになく空気が辺りに張りつめている気がした。
 といってもまだ五時半なので、ふしぎではない。滑走路を朝日が染めるまでには、あと一時間はある。
 息を深く吸いこんだ美空(みく)は肩をすくめた。胸までの長さを大きめのヘアクリップでひとつにまとめただけの髪から、後れ毛が揺れる。
 カーキ色のワイドパンツに、ミモザを思わせる色の薄手のニットだけでは肌寒い。
 だが、出勤してしまえば空調の効いたオフィスに一日じゅう貼りつくので、今だけの辛抱だ。
 美空は身長154センチの小柄な体で早足になり、ほの暗い駅からの道を、機影を探して空を見あげながら足早に職場を目指す。
 機影から機種を判断するに、今日も羽田空港を発着する飛行機は予定どおり運航しているみたいだ。職業病のなせる技か、ついそんなことを考えてしまう。
 日本でも一、二の旅客数を誇る航空会社、エアプラス社。
 羽田空港にほど近くにある本社ビル三階のオペレーションセンター、通称オペセン。そこが入社以来四年間、美空の職場だった。
 およそ百人ほどが働く広いフロアに足を踏み入れると、人間よりも圧倒的に多いモニター類に出迎えられる。
 そのモニターの前では、ディスパッチャー(運航管理者)たちが真剣な目で自分の担当する便の運行をチェックしていた。

「おはようございます。昨夜はどうでした?」
「風は異常なし。ゴーアラウンドが一件あったけど、前の機体がモタモタしたせいだったから大したことじゃない。静かな夜だったよ」

 今日の美空は早番だ。夜勤の担当から業務の引き継ぎをする。
 そのあいだも、フロアにはパソコンのキーボードを叩く音や航空無線の声が休みなく行き交っていた。
 ここは二十四時間、休むときがない。
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