両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

16 踊れないワルツ

仕事が終わり、なんとなく重たい体をひきずってカフェのドアを開けた。

「わぁ、いらっしゃい!きてくれたのね。よかった!」

可愛らしい笑顔で店長の小百里(さゆり)さんが出迎えてくれた。
今日のおすすめ日替わりセットのメインは豚肉のチーズピカタ。
青しそと梅干し入りのご飯、煮物や味噌汁がついた夕食向けのセット。
「おいしそうですね」

「夏でみんな食欲が落ちるから、なるべく食べやすいものにしているの。よかったら、食べていって」

「はい」

唯冬(ゆいと)と暮らす前は足しげく通っていたけど、暮らしてから一度もきていなかったことを思い出した。

「こっちだよー!千愛ちゃーん!」

ちっ、千愛ちゃん!?
客席の方をみると、前髪をあげて後ろに髪をまとめた知久さんが手を振っていった。
隣には唯冬がいて、じろりと知久さんをにらんでいる。

「唯冬は独占欲が強くて焼きもちやきだから気を付けてね」

小百里さんから真顔で言われて苦笑するしかなかった。
気づいているはずの知久さんはまったく気にしないみたいだけど。
席に向かうと二人がけのソファー席に唯冬は座っていて、私を隣に座らせた。

「あ、あの、唯冬。私、別に謝ってもらわなくてもいいから」

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