両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
17 約束
「唯冬。あと数曲は弾いてくれたら、今日の日替わりセットメニューにケーキをつけるけど?」
にこにこと微笑みながら、小百里さんがやってきて言った。
「しかたないな」
お客さん達からは一曲だけなのかなという雰囲気が伝わってくる。
期待に応えるように唯冬はクラシックではなく、ジャズを弾いた。
この店でいつもかかっているようなジャズを選曲しているのだと気づいた。
「ごめんなさいね。待っている間、これでも食べていて。試作品なの」
そう言って小百里さんは私の前に白いココット型に入ったクレームブリュレを置いてくれた。
焦げた表面のカラメルにスプーンをいれると、ぱりっと音がする。
「おいしい」
こんな甘くていいのかな。
私を叱る人は誰もいなかった。