両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

18 駆け引き【唯冬】

陣川の妹とは形だけの婚約者とはいえ、両親には話をしておく必要がある。
両親は俺が誰かと住み始めたということはすでに知っているのだろう。
千愛と暮らし始めてから『顔を出せ』と何度か言ってきていたから間違いない。

「道楽息子がきたか」

それが久しぶりに会った子供にかける言葉かと思いながらリビングに入った。
母親もいて、俺と父親両方の顔をうかがうように見ていた。

「これ、コンサートのチケット。来ないと思うけど、一応渡しておく」

「ふん」

「そんなことないわ。聴きに行くわね」

母親は嬉しそうにチケットを手にしていたけど、父親のほうは『どうしようもない息子だ』という態度だった。
音楽に興味があるのは母親のほうで父親はまったくない。
音大出のお嬢さんだった母親は見合いで結婚してこの渋木の家に入った。
父親にずっと前から付き合っている女性がいることも知らずに。
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