両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

19 あの人の秘密


―――大丈夫なのかな。
私が気づいてないと思ってるのか、深刻な顔で唯冬は朝から出掛けていった。
仕事だって言っていたけど、どんな気乗りしない仕事なんだろう。

「悩みがあるなら言ってくれたらいいのに……」

しかも、いつもなら仕事の内容まで伝えて出かけていくのに今日は違っていた。
なんとなく、落ち着かない気持ちで段ボールにガムテームをはった。
梅雨も明け、夏の強い日差しが部屋に入ってきていて暑い。
アパートにきて、最後の片付けをしていた。
引っ越し業者にお願いする荷物までもなく、私がつめたのは細かい荷物だけ。
自分がピアノを失ってから、なにに対しても興味を持てずにいたことがわかる荷物の量だった。
そして、片付けた荷物の中にはピアノ関係の物はなにひとつない。
音楽雑誌もCDも本すら。

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