両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

3 届かなかった声【唯冬】

彼女―――雪元千愛とはピアノコンクールで何度か一緒になった。

同じ年代の子なら、嫌でも顔を覚えるようになる。
顔ぶれはだいたい同じメンバーだからだ。
けれど、彼女は誰のことも記憶に残っていないだろう。
自分の音かそれ以外の音しかないのだ。
彼女には。
きっと今もそうだ。

「おーい。唯冬。お前、まさか、このコンクールを聴くためだけにわざわざ留学先から帰国したわけ?」

「俺まで巻き込まれた」

俺の隣には友人のバイオリニスト陣川(じんかわ)知久(ともひさ)とその横にはチェリスト深月(みづき)逢生(あお)が座っていた。
二人とも同じ菱水(ひしみず)音大附属高校からの付き合いだ。
今は同じ音楽事務所に所属している。
俺の帰国に合わせて二人の仕事も入れられて、三人で留学先から一時的に帰ってきた。

「そうだけど?」

知久にそう答えると苦笑された。
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