両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
27 過去と今
今日は唯冬の帰りがいつもより遅い。
ちらりと時計を見ると七時。
マンションの窓からはたくさんのビルの灯りが見える。
その灯りをみて、残業かなと思うのと同時に私も会社のみんなを思い出していた。
最後の日、桜田さんが幹事をしてくれて、私の送別会を開いてくれた。
賑やかな送別会で人との関わりも悪くないなって思えたのは始めてだった。
「いい人達だったな……」
打ち解けることのできない私に何度も声をかけてくれていたんだってことが今ならわかる。
もらった花束はドライフラワーにしてピアノの練習室に飾った。
桜田さんは『コンサートに出演するようになったら、絶対に聴きに行きますね!』と言ってくれて―――そうなったら、彼女にチケットを送ろう。
そう決めていた。
「ピアノの練習もそうだけど、唯冬は体調管理もうるさいから大変よ」
ご飯は食べたか絶対に聞くし、遅くまでの練習はさせてくれないし、先生より厳しい。
そんな唯冬だけど、今日は年配のお客さんを連れてくると言ってた。
だから、ちょっと張り切って豪華な夕飯を作った。
夏野菜の具だくさんなスープと豚肉とオクラの肉巻き、あとは塩鮭と青じそ、炒り卵とゴマを入れた混ぜご飯。
デザートは夏らしく冷たい水ようかんにした。
唯冬はケータリングに頼めばいいって言っていたけど、お年を召した方ならこのほうが喜ばれるはずだ。