両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

29 三重奏【唯冬】


コンクール予選まであと少し。
小百里からカフェでの一件を聞かされた。
妹の虹亜は千愛を憎み嫌っている。
両親ではなく。

「親の愛情かー。それが必要だと思う気持ちは俺にはよくわからないなあ」

知久はふーんとさして興味がなさそうだった。
両親がいてもほとんど仕事でいなかった両親のもとでそだった知久は家族だという実感がないと言っていた。
面倒をみてくれたのはいつも血の繋がらない人だと笑う。
金銭的に恵まれていても知久の家は複雑だ。

「それはまあ、いいとしてさ」

知久は周りを見渡した。
以前、千愛ときたホテルのフレンチレストランはディナータイムというだけあって。カップルがほとんどだ。

「唯冬のおごりではあるけど……」

逢生は不満そうだった。

「なんだ?嫌いなものでもあったか?」

「違う」

「あー。わかってるって。男三人でホテルのレストランで食事って目立つよな。安心しろ。お前だけじゃない。俺も女の子のほうがいい」

知久はあー、ざんねーんと言いながら、ちゃっかり食事の誘いにはのってきている。
逢生もだが。
しっかり奢られる気できているくせに文句を言うなよ、こいつらは。
今日は三人一緒の仕事があったその帰りだ。
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