両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

30 仕返し

またここに戻ってくると思っていなかった。
隈井先生の指導のおかげでコンクール予選は難なく通ることができた。
本選会場は私が棄権した同じホール。
またここに戻ってくるなんて思ってなかった。
演奏の順番は虹亜がラスト。
そして、私がその前。
控え室は別々で私は顔を合わせることがなかった。
両親もなぜか私になにも言わないし、不思議だったけど、今はコンクールに集中できると思って気にしないようにしていた。

「雪元さん。ファイナリストにやっぱり残ったわね」

「どうなるかしら。妹の虹亜さんは海外でも有名な先生に師事していたから、さすがに優勝は無理でしょ」

私のことを知っているのか、チラチラとこっちを見てひそひそと話している人もいた。
気にしないようにしようと思ってはいるものの、視線が痛い。
青のロングドレスに着替えると、なるべく他の人から距離を置いて控え室の椅子に座った。

「すみませーん」

控え室のドアが開き、コンクールの運営スタッフが顔をのぞかせた
スーツを着た女の人がきょろきょろと部屋の中を見渡す。
誰かを探しているようだった。

「雪元さんはいますか?」

「はい。私です」

「隈井先生が呼んでいるって伝えて欲しいとお願いされて……」

「先生が?」

「ええ。こちらの控え室じゃなくて、運営スタッフの控え室のほうへきてほしいと言っていましたよ」

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