両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

31 君の音【唯冬】

「今日は仕事入れるなって言っただろ」

「何回も謝ったじゃないですか。時間には間に合うように終わったんだから、もう許してくださいよー!」

宰田は運転しながら、すみませんと言っていたが、蛇みたいにしつこいんだから困りますよと小さい声で呟いたのはしっかり聴こえているからな?

「まあまあ。宰田を許してやれって」

「うん。ステーキ弁当に罪はない」

こいつら!

どさくさに紛れて、宰田に唐揚げ弁当からステーキ弁当に格上げさせ、仕事が終わると俺と一緒にコンクール会場についてきた。
急に雑誌の取材の仕事が入ったのはこいつらの罠じゃないかと怪しんでいる。
こんな都合よく三人同時にスケジュールを合わせてこれるか?

「いやー、楽しみだなー」

知久はうきうきしていたが、一番怪しい。
じろりとにらむとさっと目をそらした。
こいつが犯人か。
知久が『みんなで千愛ちゃんを応援しよう!』と騒ぎだしたから、わざと日にちを教えていなかったというのに。
宰田が教えたんだろうな。

「周りに迷惑にならないように静かにしてろよ」

「わかってるよ」

今、返事をしてほしいのは逢生じゃなくて、知久だけどな。

「へぇー。同じ会場なんだなー」

そう、同じ会場だ。
千愛が棄権したコンクール会場は同じコンクールで同じ会場。
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