両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】
32 その先へ
サティのジムノペディ。
この曲を弾いていると心が落ち着く。
今日、唯冬がコンクールを聴きにくると言っていた。
だから、きっと私を見つけてくれる。
この曲を聴いたなら、私だとすぐにわかってくれるはずだと信じていた。
暗闇は昔のような真っ黒で私の心すら塗りつぶしてしまうような墨色の闇ではない。
微かな光があった。
ドアの前が騒がしく感じて、ふっと顔をドアのほうへと向けた。
「千愛」
その声は私の一番好きな音。
鍵盤から指を離し、ドアに駆け寄った。
「唯冬!」
その声が聴こえ、ガチャガチャとドアに鍵が差し込まれた音がする。