両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

4 心

激しい雨がノイズ音のように少しだけ開いた窓から聴こえてくる。
時々、誰かが練習する音も。
いつもなら、閉めておく窓も今は開いたまま。
閉める必要がないから―――

「弾けなくなった原因はなにか自分ではわかっているのかね?」

「……わかりません」

嫌というほど繰り返された問答。
ピアノの練習室には私と年老いた先生だけ。
隈井(くまい)先生は有名なピアニストを何人も輩出した評判のいい先生だった。
その評判を耳にした両親は私を菱水音大附属高校に入学させた。

『君の音はまるで機械だね。お得意のリストもまるで正確に時を告げる鐘のようだ』

初めて演奏した時、そう言われた。
他の先生は私の演奏を褒めてくれるけれど、唯一、隈井先生だけは認めてくれなかった。
一度も褒めてくれず、ただ『正確だね』とだけ。
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