両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

5 妹

土曜日、自分がなにをしていたのか覚えてない。
日曜日の朝になって、カーテンを開いた。
雨はあがっていて、眩しい日差しに目を細めた。

「渋木唯冬……」

彼は何者?
手のひらをじっと見つめた。
今まで私は弾きたいと思ったことは一度もない。
弾こうともしなかった。
カウンセリングを受けても両親から何を言われても無理だったのに。
彼がピアノを弾く姿を思い出して、首を横に振った。
いつもの日常に戻らなくては。
ぱんぱんっと顔を叩いて目を覚まさせた。
まずは家事を済ませよう。
そう思って洗濯機を回した。
気づくと洗濯機の音を指で叩いている自分に気づく。
―――なにしているの、私。
ただの生活音が音符に変わる。

『これで弾けるようになるよ』

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