両親と妹はできそこないの私を捨てました【菱水シリーズ①】

9 足りないもの

会場を出て、唯冬が私を連れてきたのは自分のマンションだった。
最上階のペントハウスはルーフバルコニー付きで当然ながら眺めがいい。

今はまだ日が沈んでいないから、夜景とまではいかないけれど、ビルの灯りが点々と灯り始めて、夕暮れ時特有の不思議な気持ちを味わった。

「どうかした?」

「すごいマンションに住んでいるんだなって思って」

「親からもらったマンションだよ」

「もらった!?こんな部屋を?気前のいい両親ね……」

私の親は学費のみだけで、生活費はもらえなかった。
親からは大学の学費を支払ってやるだけでもありがたいと思えと言われ、その後は私の存在は完全に無視。
だから、大学時代はアルバイトをいくつかやって生活していた。
どれも音楽とは無縁のコンビニやファミレスの店員のバイト。
いろいろやってみたけど、自分に接客は向かないことはしっかりと理解できたと思う……

「俺の親は会社経営をしていて、本当は俺にもピアノは続けてほしくないって思ってる。大学を出るまでにピアノで食べることができないなら、やめるように言われてた」
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