失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
ずっと欲しかったもの、たったひとつ
 光輝さんの用意したウィークリーマンションは、今住んでいるマンションとグレードがほぼ変わらない高級なところだった。

 家賃は聞いていないけれど、コンシェルジュが待機しセキュリティも厳しい。おまけにマンション内にレストランや屋内プール付きのジムなどがあって、サービスやアクティビティに余念がない。

 下手するとマンションから出ずに生活することも十分に可能だ。とはいえ、もともと一般家庭育ちの私としては、どうも落ち着かない。ましてや今は光輝さんはおらず、ひとりだから余計にだ。

 職場とマンションが近いのもあり、通いやすくはあるし生活に不自由はなにもない。でも、光輝さんがいない生活にこんなにも違和感と寂しさを覚えるなんて。

 光輝さん、元気かな?

 彼と離れて暮らし、一週間になる。声が聞きたくて電話したいと思う一方で、彼の負担になりたくない。それでも毎日、寝る前にメッセージを送るようにしている。

 今日も一日何事もなく終わったと報告と彼を安心させるためだ。光輝さんもたまに、短く返してくれる。それだけで幸せいっぱいになり、何度も画面を見てにやけているのを彼はきっと想像もしていないんだろうな。

 マンションの工事が終わったら光輝さんから連絡がくることになっている。数週間はかかると聞かされたけれど……。

 工事が終わったら、私たちまた一緒に住めるよね?

 あたり前のようで確信が持てない。このまま光輝さんと離れてしまうのではないかという不安が消せずに、いつも通り振る舞っていても心の苦底ではずっと苦しかった。

 マンションのエントランスを出て、きょろきょろと辺りを見渡す。
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