失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
冗談としか思えないプロポーズ
 送られた住所と目の前の建物を交互に見遣り、なかなか決意が固まらずにいる。

 今朝、まずは光希に電話して昨晩の件を謝罪した。光輝さんから先に、無事に私を送り届けた連絡があったらしい。

『申し訳ないよ。お兄さん忙しいのに、妹ならまだしも妹の親友を迎えに行かせるなんて』

 妹のお願いとは偉大だ。私にも妹がいるから少しは気持ちもわかる。

『うん、私もびっくりしちゃった。いつもは忙しいとかなにかとお願いしても断られるのに、昨日はあっさり〝わかった〟ってふたつ返事なんだもん』

 驚いたのは私の方だ。しかし、すぐに自分に言い聞かせるように返す。

『警察官の義務みたいなものかな? 防犯対策とか教えてくれたし』

 一般市民に対する差し障りのないものだ。彼の行動にきっと深い意味などない。

『そうかなぁ? お兄ちゃん、そんなに優しくないと思うけど』

『や、優しいよ!』

 納得していない光希につい反射的に反論する。優しさがないなら恋人でも友人でもない私を迎えに来て、さらには家に送り届けたりしないだろう。

 本音ではどう思っていたとしても……。

『どうだろう。お兄ちゃん、警察官になってからどこかピリピリしているというか、いつも気を張りつめている感じで、昔よりちょっと近寄りがたいのよね』

 それは私も感じた。学生の頃にあったやわらかさはまったくなくなり、口調も雰囲気も厳しいものになっている。
< 31 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop