失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
仮初夫婦の初夜事情
 五月の大型連休、カルペ・ディエムは予約で大盛況の中、光輝さんとともに店の空き時間に両親への挨拶に訪れる。結婚はもちろん、大林さんとの一件をすべて解決してくれたことに両親は恐縮しっぱなしだった。

「光希ちゃんのお兄さんなんですね」

「ええ。ですから未可子さんが中学生の頃から知っているんです」

 いつもの冷たさは微塵も感じさせない愛想のよさに、平静を装いつつ戸惑う。

 こういうとき、もともと顔見知りだった彼との関係は辻褄合わせに便利だ。

 久しぶりに再会して、昔話に花を咲かせるうちに盛り上がって、結婚を前提に付き合う流れになる。

 多少の誇張や脚色はあるものの嘘をつかないのが、彼のすごいところだ。

 両親は光希をよく知っているし、光輝さんの職業も相まって、突然結婚相手として紹介しても両親はとくに違和感を抱く様子はない。

 なにより光輝さんの話は理路整然としていて、自然と相手を信頼させる力がある。

「光輝さん。未可子と結婚するからとはいえ大林さんの件は私たち夫婦の問題です。光輝さんにご迷惑をおかけするわけにはいきません。娘たちには心配をかけましたが、私たちは娘を犠牲にして店を続けるつもりはないんです。ですから、あなたは未可子のことだけを考えてください」

 父が真剣な表情で切り出し、一瞬沈黙が走る。父は、私がこの結婚を決めたのは自分たちのせいだと感じているんだ。胸が締めつけられるが、なんて答えたらいいのか。

 私がなにか言う前に光輝さんが口を開く。
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