失恋相手と今日からニセモノ夫婦はじめます~愛なき結婚をした警視正に実は溺愛されていました~
変わらないものと変化していく想い
 わかってはいるが、プライベートなんてあってないようだものだ。いつだって気が抜けない。

 それでも今日、未可子と映画を見られたのはよかった。

 映画自体はそこまで期待していなかったが、隣の席で百面相をしながらスクリーンに釘付けになっている未可子を見るのは、なかなかおもしろかった。

 逆にこれが見たかったのだと実感する。結婚するまで知らなかった彼女の表情、趣味嗜好。どれも興味深くて、知るたびに満たされて、彼女に惹かれていく。

 未可子との結婚生活は想像以上に心地いい。仕事で疲れていても、彼女が笑顔で出迎えてくれるとどこか安心する。

 殺伐とした案件を職場で扱っても、そんな雰囲気とは無縁の未可子との会話は、心安らぐ時間だ。

 俺のために一生懸命な彼女が愛らしくて、気づけば誰にも渡したくないと思う自分もいる。けれど、未可子が俺のためにがんばるのは、おそらく実家の件があるからだろう。気持ちがあるわけじゃない。そこを肝に銘じているから手も出さないし、出せない。

 逆に俺は、未可子になにができるだろうか。

『素敵なカフェですね。初めて入りました』

 よく足を運ぶカフェに未可子を連れていくと、彼女は顔を綻ばせた。いつもより饒舌で楽しそうな彼女に、連れてきてよかったと思った。

 独身の頃、ひとりでよく訪れていた店に、誰かを連れていきたいと思ったのは、俺も初めてだ。

 しかし、そこで竹中局長の娘に遭遇するとは想像もしていなかった。仕事の電話まで入り、未可子に余計な気をもませた。

 いや、未可子は気にしていないのか。それはそれでヤキモキするのだから、随分と勝手だ。
< 97 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop