恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~

1.友人+仕事>恋人

「……じゃあな」


素っ気ない別れの言葉。

明日になればまた会えると勘違いしそうなくらいの気安さ。


「仕事好きも大概にしろよ?」


垂れ目がちの二重の目を優しく細める。


眞玖(まき)の開発した商品を楽しみにしてる」


最後の最後まで、甘い言葉ひとつ囁かない。


わかっていた。

彼にとって私は“恋愛対象”じゃない。

よくて友人、もしくは同志。

恋心なんて、絶対に伝えられない。

そんな真似をしたら、今の居場所すら失ってしまう。

自分を縛ろうとする女性を、この人はとても嫌うから。

心の奥底に本心を押し込めて、笑顔を貼りつける。


「……元気、でね」


「ほかには?」


「え?」


「これから数年会えなくなる俺に、餞の言葉はそれだけ?」


近づく長い足が、あっという間に距離を詰める。


「帰国するまで、俺は眞玖に会わない」


薄い唇から紡がれた、突然の拒絶と厳しい宣告に頭が真っ白になる。

心がキリキリと痛いくらいに締めつけられる。


「――だから眞玖はその日まで覚悟しておけよ?」


初めて向けられた、誘惑するような眼差し。

長く骨ばった指が私の髪を緩く絡めとる。


「もう、知らんふりはしない」


整いすぎた容貌が間近に迫り、唇に触れた柔らかな感触に目を見張る。


「――またな」


今のはなに?


なんでキスするの?


待って、行かないで。


数々の質問と本音を喉の奥に閉じ込めたまま、搭乗口へと向かう彼をただ見つめるしかできない。

 

最後の最後まで意気地なし――こんな自分が大嫌いだ。

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