恋慕~再会した強引御曹司に甘く囚われて~

12.「これから一生一緒だ」

五十嵐さんの婚約騒動から二カ月ほどが過ぎた。

十月になり、私はこれまでと変わらない毎日を過ごしている。


「眞玖、まだ仕事してるの? 今日は早く帰るって言ってなかった?」


定時を一時間近く過ぎたとき、親友に声をかけられた。


「うん、でもこの決裁書類だけは作成しておきたくて」


「いくら通勤時間が短くなったからってこれまで以上に残業してたら、藤宮副社長に愛想をつかされるわよ」


「以前より早く切り上げるよう心がけています」


大袈裟に肩を竦める親友に、小声で言い返す。

すでに退社している同僚も多く、フロア内の人影はまばらだ。

正式な婚約発表はまだしていないが、私たちは先月改めて両家の親同席のもと、婚約した。

匡は婚約指輪を贈りたいと譲らず、しかもやたら豪華すぎる指輪ばかり選ぼうとするので、止めるのに一苦労だった。


『眞玖に贈る指輪は妥協したくない』


そう言って、甘く懇願してくる彼に振り回されっぱなしだ。

やっと決めた指輪はやはり豪華すぎて、今後指にはめるのも緊張して気後れしそうだ。

微調整等もあるため、後日受け取る予定になっている。

ちなみに何度聞いても値段は教えてくれず、私もなにか贈りたいと押し問答を繰り返したのは記憶に新しい。
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