孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない

まだ知らない顔、でも感じる温もり

翌朝――紬の朝は、めずらしく早かった。

いつもなら、休みの日は目覚ましもかけず、パジャマのままゴロゴロとソファで過ごすのが定番。
けれど今日は違う。
ベッドから飛び起きて、クローゼットの扉を勢いよく開けた。
次々に服を引っ張り出して、部屋に並べる。

「……え、待って、私……大した服ないじゃん」

気づいたときには、ベッドの上はシワだらけのトップスと、地味なパンツばかり。
これぞ、“彼氏いない歴=年齢”の末路……。
思わず、くしゃっと膝をついてうなだれた。

そのとき、スマホがテーブルで軽く振動した。
画面には【松井あかり】の名前。

《久しぶりに休日ランチしよー 茜も誘ってる最中!》

紬は一瞬悩んでから、
《今日はお昼から一条さんとデートすることになったからいけない、ごめん!》
と手短に返信。

秒で返ってきた。

《デート!?えっ、そんなに進展したの!?いつのまに!頑張って!!準備とか大丈夫そう??》

《デート向けの服がなくて詰んでる!》

返信はすぐだった。

《昼からなら服買いに行こう!開店と同時に行けば間に合うよ!》

その手があったか……!

思わずスマホを胸にぎゅっと抱きしめ、ベッドから跳ね起きる。

すぐにシャワーを浴びて、髪を乾かしながら軽く巻き、ナチュラルに整えたメイクを済ませる。
着替えもそこそこに、バッグに財布とリップを突っ込んで、指定された駅前のショッピングモールへ向かった。

胸がドキドキしていた。
デートへの期待と、ちょっとした不安と、そして――新しい服との出会いへのワクワクと。

「よし……絶対、似合う服、見つける」
小さくつぶやいて、改札を抜けた。
< 106 / 211 >

この作品をシェア

pagetop