孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない

触れ合う心、溶け合う身体

キッチンで後片付けをしていると、リビングから隼人の声が飛んできた。

「紬ー、これ何?」
振り返ると、彼が指さしているのは紬が持ってきた一泊二日用のカバンだった。

紬は静かにエプロンの紐を外し、隼人のいるラグの上へと歩いていく。
そして、彼の前に正座して腰を下ろした。

「え、どうしたの?」
意外そうにしつつも笑みを浮かべ、隼人はあぐらをかいて紬の目の前に座る。

半袖のシャツに長ズボンというラフな格好。
くつろいだ空気を纏う彼に対し、紬の体はガチガチだった。

じっと彼を見つめ、深呼吸を一つ。

「あの、今日は……お伝えしたいことがあって。」

隼人もその雰囲気を察したのか、姿勢を正しながら、「なんでしょうか?」と、つられるように敬語で応じた。

「私、今日は……あの……その……隼人さんに……」

言葉を探す間に、顔はどんどん赤くなっていく。
心臓の音が耳を打ち、爆発しそうだ。

「俺に……?」
彼が穏やかに問い返してくる。優しく、でも真剣に。

「だ……だ……」

「だ?」
首を傾げる隼人。

「抱っこ……してもらいたい……」

一瞬、空気が止まった。

(ちがう!ちがう!違うのに!)
紬は心の中で自分に猛パンチ。

次の瞬間、隼人が床に倒れこむように大爆笑した。
「はははっ、抱っこって……いや、可愛すぎるってば!」

紬は顔を両手で覆い、悶絶。
笑いが止まらない隼人を前に、もう穴があったら入りたい気持ちだった。
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