孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない

無垢な瞳、隠された影

紬は、心地よい夢の中から引き戻されるように目を覚ました。
夜の静けさが漂う部屋で、ふと耳にしたのは、隼人の苦しそうなうなされているような声だった。

その声が耳に届くと、胸の中に不安が湧き上がり、思わず目を見開いた。

「隼人くん…」

はっとして隣を見やると、隼人は寝ているはずなのに、眉間にしわを寄せ、苦しげな表情を浮かべていた。

普段の彼からは想像もできないような顔だった。
その姿に、心の奥に冷たいものが走る。

紬は不安を感じながらも、隼人が少しでも安心するように、布団からわずかに見える肩をトントンと優しく叩いた。

その瞬間、隼人は驚いたように目を覚ました。
彼の瞳が急に開き、紬を見つめると、どうしようもないほどの困惑が浮かんでいた。

「隼人くん、大丈夫?うなされてたよ。」

紬の声に反応して、隼人は何も言わず、ただ無言で紬の体を少し強引に引き寄せ、強く抱きしめた。

その力強さには、普段の隼人からは想像できないほどの緊張感がこもっているようだった。

「隼人くん…?」

紬が心配そうに問いかけると、隼人は小さな声で、ただ「少しの間、こうさせて」と呟いた。
その言葉には切実さが滲んでおり、紬は言葉を失った。

何も言わず、ただ隼人に抱きしめられるまま、紬はその腕の中で静かに身を任せた。

心の中で、まだ隼人の苦しみが完全に解けていないことを感じ取り、心配の種をまいていった。

今、隼人が求めているものが何なのか、そしてその理由が何なのか、紬はどうしても知りたくてたまらなかった。

でもその時は、ただ静かに抱きしめられていることで、何も言わずに寄り添うことしかできなかった。
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