孤高の弁護士は、無垢な彼女を手放さない

どっちの味が好き?

夕暮れ時のスーパーには、仕事帰りの人々がちらほら。
その中に紬と隼人の姿もあった。

「今日は一緒に作ろう」
そう言って隼人がキッチン担当に名乗りを上げたのは、仕事が終わった帰り道のことだった。

「これと……これもあったほうがいいよな」
彼は慣れない様子で食材を手に取り、カゴにぽんぽん入れていく。
一見クールなその人が、真剣な顔で鶏むね肉と鶏もも肉を見比べているのが、なんとも可笑しくて愛おしい。

「隼人くん、それまだ冷蔵庫にあったでしょ」
紬がそう言ってやんわりと指摘すると、隼人は少しだけバツが悪そうに「……そっか」と言って、そっと棚に戻す。

そんな一瞬も、紬にとっては宝物だった。
買い物かごを押しながら、少し前を歩く隼人の背中を見て、胸がふわっと温かくなる。

「隼人くん、可愛い……」
心の中で何度もそうつぶやきながら、紬は目尻を下げていた。
大きな背中に、不意に子供のような無邪気さが宿っていて、そこがまたたまらない。

買い物をしているだけなのに、なぜこんなに幸せなんだろう。
日常の中に、確かに「ふたりの時間」が根を下ろし始めている。
そんな実感が、紬の心をそっと満たしていた。
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