紳士な外交官は天然鈍感な偽りの婚約者を愛の策略で囲い込む
6.一難去って、また一難
十二月も中旬を過ぎると、ひだかの料理を食べ納めしようと、連日多くの予約客でいっぱいになる。
伊織の本心を聞いてから、数日が経った。今週は目の回るような忙しさだが、彼と心を通わせ、ようやく本物の夫婦になれたという事実が、千鶴の心をこれ以上ないほど満たしている。
『もう土曜日だけじゃないから。覚悟してね』
そう告げられた通り、あの夜以降、毎日のように身体を重ねている。その時間はだんだんと濃密になっていき、初心者の千鶴は羞恥心と過ぎた快楽に泣かされているが、拒否するつもりは一切ない。
(だって、あんな風に伊織さんに見つめられたら……)
千鶴の中の伊織は優しく穏やかで、いつだって千鶴を優先してくれる紳士的なイメージだ。それが夜になるとスーツに隠されていたたくましい身体を晒して千鶴を組み敷き、男の色気を湛えて求めてくる。
決して手酷い扱いはされないが、千鶴が恥ずかしがっているだけで本気で嫌がっているわけではないとわかっているのか、どれだけ首を振ってもなかなか離してもらえない。
意地悪な笑みを浮かべ、執拗に快感を植え付けてくるのだ。その間にも『可愛い』『好きだよ』と愛を囁くのを忘れない。
そうしてようやくひとつに繋がり、すべてが終わったあとは蕩けてしまいそうな笑みで甘やかしてくれる。
ずっと一方通行だと思っていた相手から情熱的に愛され、憧れていた結婚生活が現実となった。伊織に愛されているという自信は仕事にも張りをもたらし、どれだけ忙しくても頑張れる。
千鶴は、この夢のように幸せな日々が続いていくと信じて疑っていなかった。