紳士な外交官は天然鈍感な偽りの婚約者を愛の策略で囲い込む
7.策士妻に溺れる《伊織Side》
伊織はくったりと横たわる妻を腕に抱いたまま、じっとその寝顔に見入っている。汗で乱れた前髪を直してやると、くすぐったそうに身動ぎするのが愛らしい。
「ん……」
それでも閉じられた瞳が開くことはなく、疲れ果てて深く眠っている。時計を見れば、深夜というよりも明け方と言った方がしっくりくる時間だった。
(少しやりすぎたか。結局、俺が千鶴に甘えてるんだよな)
何度も高みにのぼり、体力が限界を迎えていようとも、伊織が求めればいじらしく応えようとしてくれた。
その姿は健気でありながら妖艶で、涙を零しながら吐息交じりに喘ぐ千鶴は美しく官能的だった。
今夜は気が昂っていたせいか何度抱いても飽き足らず、いつも以上に執拗だった自覚はある。
これほどまでにひとりの女性に心を奪われ、必死に求め、愛したのは初めての経験だ。
じっと寝顔を見つめると、むにゃむにゃと口を動かしたかと思えば「くぅん……」と子犬の鳴き声に似た寝息を立てる。
この無防備で愛らしい彼女を知っているのが自分だけなのだという優越感に胸が踊り、改めて誰にも渡したくないという独占欲が湧いてくる。
気を失うように眠るまで責め立てておきながら、無意識にすり寄ってくる無防備な彼女を腕に抱いていると再び滾りそうになるのだから始末が悪い。
(俺もまだまだ若いな)
伊織は自身の余りある欲求に苦笑し、彼女の素肌にシーツをかけながら、これまでの出来事に思いを馳せた。