紳士な外交官は天然鈍感な偽りの婚約者を愛の策略で囲い込む
エピローグ
生まれた女の子は「陽茉梨」と名付けられた。
陣痛から出産まで十六時間。仕事中だった伊織も途中で駆けつけ、立ち会いの中での出産となった。医師からは初産にしては時間もかからず安産だったと言われたが、千鶴はとてつもない疲労感に襲われている。
(安産でもこんなに痛くて辛いなんて、世の中のお母さんってみんな凄い……)
生まれた陽茉梨はとても可愛くて大切な存在だが、すぐに痛みが吹き飛ぶかと言われれば現実はそうでもない。その上、初めての授乳に沐浴指導、慣れないオムツ替えに追われ、初日からいっぱいいっぱいだった。
そんな出産から五日が経ち、退院の日。まだ身体はガタガタではあるけれど、陽茉梨を連れて家に帰れるのだと思うと嬉しさが込み上げてくる。
「忘れ物はないかな」
迎えに来てくれた伊織が病室を見回した。
「はい。すみません、お仕事を抜けてきてもらっちゃって」
「大丈夫、今は余裕のある時期だから。ほら、荷物は任せて。千鶴は陽茉梨を抱っこしてあげて」