「愛は期待するな」と宣言していたエリート警視正の旦那様に離婚届を渡したら、次の日から溺愛が始まりました
第5話 世界で一番ちぐはぐな初夜

《1》

 熱は、翌朝には下がった。
 微熱すら残っていない状態で向かったかかりつけの内科では、少々気まずい思いをしたけれど、念のために感染症の検査は受けた。結果は陰性だった。

 結局、あの発熱はなんだったんだろう。
 頭痛も、熱と一緒に綺麗に引いた。しばらく代わり映えのしない生活を送っていたところに、短期間で急にいろいろなことが起きたせいで、あれこれ頭を悩ませすぎたからだろうか。

 水曜、今日は朝から問題なく出勤できた。
 看病してもらったあの夜から、私たち夫婦は一度も顔を合わせていない。無論、これが私たちの日常なのだけれど、改めて振り返ってみると本当にすれ違いの日々だ。

 前々から、和永さんには休みなんかあってないようなものという印象しかない。自分の仕事以外にも、周囲への根回しとかお付き合いとかいろいろあるんだろうなと思う。叔父も、若い頃はおおよそそんな感じだったと聞いている。

 私より和永さんのほうがよほど心配だ。
 夜中に帰宅して朝にはもういない、激務などという言葉でも生ぬるい気がしてしまうあの生活を何年も続けて、よく身体を壊してしまわないな、と不安に襲われる。
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