「愛は期待するな」と宣言していたエリート警視正の旦那様に離婚届を渡したら、次の日から溺愛が始まりました

《3》

 予測がつかない。
 さっきまで、あんなに楽しそうに喋っていたのに。

 キスが嫌だったのか、それとも抱き締められたのが嫌だったのか、あるいは他に泣くほどの理由があったのか、なにも分からない。髪を撫でている間は心地好さそうにすら見えたのに、一体どこで間違えてしまったんだ。

 おかしくなりそうだ。
 この人にだけ、碌な対応ができなくなる。

 この二週間で嫌というほど思い知ったことだ。
 愛だとか恋だとか、そういうものは自分とは無縁だと信じて疑わなかった頃の自分にはもう戻れない。その頃の自分がどうやって生きていたのかさえうまく思い出せない。

『直してほしいところがあるなら言ってほしい』
『絶対直す』

 思いつくまま御託を並べるしかできなかった上に、結局は『泣かないでくれ』に着地してしまった。君が離婚したい理由にも、君が本当は自分にどうしてほしがっているのかにも、躊躇のせいで踏み込めなかった。

 たどたどしく喋り終えた後、首に腕を回された。弱い力で引き寄せられて止められなくなった。
 二度目のキスは、一度目よりずっと求められている感じがして、堪えきれなくなって深くまで熱を絡めた。
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