「愛は期待するな」と宣言していたエリート警視正の旦那様に離婚届を渡したら、次の日から溺愛が始まりました
第7話 藻掻いて藻掻いてそれでも

《1》

「じゃああたし、ご飯食べてくるから適当によろしく~」

 板戸さんの軽い調子の声が耳に届き、私はようやく我に返った。
 はっと彼女に目を向けたときには、すでに板戸さんはスタッフに声をかけて別席に案内されていて、あ、私をお姉さんの元に案内したらその後は普通にひとりでご飯を食べる気だったんだ、最初からそういう心づもりだったんだ、と今さら気づく。さすがというかなんというか、マイペースを極めている。

 私はといえば、「まぁ座ってください、ご馳走しますんで」と促され、おとなしく榛奈さんの対面に腰を下ろすしかなかった。
 喋り方の癖がどことなく板戸さんに似ている。本当に姉妹なんだな、と遅れて認識がやってきた。

 近頃は友人と外食する機会も激減していて、誰かとファミレスで同席すること自体が相当に久しぶりだ。
 初対面の、それも一方的に嫉妬めいた感情を覚えていた相手と、和やかに食事を楽しめる気はしない。けれど悲しいほどお腹が空いてしまっている。ご馳走する、という彼女の言葉を気にしてリーズナブルな値段のパスタをひとつ、それにドリンクバーをつけて注文することにした。
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