「愛は期待するな」と宣言していたエリート警視正の旦那様に離婚届を渡したら、次の日から溺愛が始まりました

《2》

 駅まで送ってくれた榛奈さんと別れ、電車に揺られて帰路に就いた。
 お店を出る頃には板戸さんはもう帰っていたみたいで、店内には姿が見えなかった。さすがのマイペースぶりだな、と密かに感激してしまった。

『うまく話せるように祈ってるよ』

 別れ際にそう言って手を振った榛奈さんの顔が、電車を降りてからも、改札を通ってからも、目の奥に焼きついて離れなかった。

 実家までの道のりは、朝の出勤時に逆方向に歩いたときよりも短い気がした。
 ファミレスを出たときは蒸すような暑さがまだ満ちていたけれど、風が出てきたからか、今は少し涼しくすら感じる。

 和永さんと話したい。
 今夜、あるいは今、できるだけ早く。

『言わなくていいです』

 私のあの言葉は、きっと和永さんを傷つけた。
 そのことも謝りたいし、電話ひとつ通じない状態で昨晩から家を開けていることも謝りたい。期待と我儘を募らせてあなたに失望されたくなかったのは事実だけれど、そのせいであなたを傷つけるのは間違っている。
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