「愛は期待するな」と宣言していたエリート警視正の旦那様に離婚届を渡したら、次の日から溺愛が始まりました

《3》

 話の途中で不自然に通話が途絶え、気が気ではなくなって急いで薫子の実家へ向かった。

『まだ帰ってないんです、あの子』

 昨日はお休みで今日から仕事に行ったんですけど、何時に戻るのかまでは連絡がなくて、あの子スマホの電源ごと落としてたみたいでしたから――告げられるたび、義母の声が遠のいていくような錯覚に囚われ、居ても立ってもいられなくなって斎賀家の玄関を飛び出した。

(……そんなはずは)

 そんなはずはない。
 電話越しに、他ならぬ本人が『もうすぐ家に着く』と言っていたのに。

 なにかあったとしか思えない。それでなくても、薫子の身の回りでは近頃異変が起きていた。不審者による尾行、非通知着信の増加、本人がどちらもあまり重大に考えていない状況がなおのこと良くない。

 胸騒ぎのせいで息が詰まる。
 真夏なのにぞわりと寒気に襲われながら、例の組織犯の件で動いている部下へ、それから連携を取っている警察署へ順に連絡を入れる。

 比留川。やはり、薫子が婚約破棄した男と同一人物だったらしい。
 悪い予感ほど無駄に当たる。別件の容疑者として逮捕状が出ているものの、まさか捕える直前にここまであからさまな所業に打って出るとは。
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