「愛は期待するな」と宣言していたエリート警視正の旦那様に離婚届を渡したら、次の日から溺愛が始まりました
エピローグ
骨の髄まで蕩けるような、ひどく甘い夢を見た気がする。
ふ、と意識が浮上し、私はゆっくりと瞼を開く。今日って何曜日だったっけ、とまだ覚めきっていない頭でぼんやり考えたそのとき、低い声がやや遠巻きに耳を掠めた。
(和永さんの声……)
寝室のドアのすぐ外で通話しているらしい。はい、はい、と相槌めいた声が聞こえてくる。
ほどなくしてドアが静かに開き、あ、と思わずといった面持ちで声を漏らした和永さんと視線がかち合った。
このひと月で、和永さんは以前とは見違えるほど感情を顔に出すようになった――いや、違う。私が和永さんの顔をよく見るようになったのだ。表情の些細な違いが分かるくらいまで、つぶさに。
「おはよう」
「……おはようございます。電話ですか?」
「ああ。職場に」
「あ……私もかけないと、」
「いや、君の職場にかけてきた」
時間を確認したくて咄嗟に視線を動かしたけれど、想定外の言葉が聞こえてきて、は、と目を見開いて固まってしまう。
「私の職場に、ですか?」
ああ、となんでもないことのように返してくる和永さんを、私はただ呆然と見つめ返すしかできない。
ふ、と意識が浮上し、私はゆっくりと瞼を開く。今日って何曜日だったっけ、とまだ覚めきっていない頭でぼんやり考えたそのとき、低い声がやや遠巻きに耳を掠めた。
(和永さんの声……)
寝室のドアのすぐ外で通話しているらしい。はい、はい、と相槌めいた声が聞こえてくる。
ほどなくしてドアが静かに開き、あ、と思わずといった面持ちで声を漏らした和永さんと視線がかち合った。
このひと月で、和永さんは以前とは見違えるほど感情を顔に出すようになった――いや、違う。私が和永さんの顔をよく見るようになったのだ。表情の些細な違いが分かるくらいまで、つぶさに。
「おはよう」
「……おはようございます。電話ですか?」
「ああ。職場に」
「あ……私もかけないと、」
「いや、君の職場にかけてきた」
時間を確認したくて咄嗟に視線を動かしたけれど、想定外の言葉が聞こえてきて、は、と目を見開いて固まってしまう。
「私の職場に、ですか?」
ああ、となんでもないことのように返してくる和永さんを、私はただ呆然と見つめ返すしかできない。