「愛は期待するな」と宣言していたエリート警視正の旦那様に離婚届を渡したら、次の日から溺愛が始まりました
第3話 最後の晩餐と言い訳する唇
《1》
(これは……なに?)
目の前の現実が、密かに見続けてきた甘い夢との境目を失ってしまったかのような錯覚に溺れ、くらりと眩暈がした。
「お願いだ。薫子」
まっすぐに見つめられ、ひくりと口端が震えた。
胸元に押しつけられた花束から香る甘い匂いが、混乱に沈んだ私の頭を、ますます激しく掻き乱してくる。
握られた手が熱い。エアコンに適度に冷やされた部屋の中、彼の熱は私の指を心地好く包み込んでいる。
そのせいで、離婚届にペンを走らせることで一度は殺したはずの期待が、再び胸の奥でじりじりと燻り始めてしまう。
(……いけない)
意識的に、花束からも和永さんからも目を逸らした。
自分の勘違いが怖くて直視していられなくなったのだ。初めて触れられた指が勝手に震え始める中、私はなんとか声を絞り出す。
「あ、あの、」
「なんだ。言っておくがその届は俺が預かる、書かないし返しもしない」
「いや……あの……そうではなく……」
指を伝った熱が、見る間に全身に広がっていく。
今の自分はきっと真っ赤だ。きつく目を瞑り、私は上擦った声を漏らした。
「お夕飯を作りたいので、……放してもらえますか……っ!」
目の前の現実が、密かに見続けてきた甘い夢との境目を失ってしまったかのような錯覚に溺れ、くらりと眩暈がした。
「お願いだ。薫子」
まっすぐに見つめられ、ひくりと口端が震えた。
胸元に押しつけられた花束から香る甘い匂いが、混乱に沈んだ私の頭を、ますます激しく掻き乱してくる。
握られた手が熱い。エアコンに適度に冷やされた部屋の中、彼の熱は私の指を心地好く包み込んでいる。
そのせいで、離婚届にペンを走らせることで一度は殺したはずの期待が、再び胸の奥でじりじりと燻り始めてしまう。
(……いけない)
意識的に、花束からも和永さんからも目を逸らした。
自分の勘違いが怖くて直視していられなくなったのだ。初めて触れられた指が勝手に震え始める中、私はなんとか声を絞り出す。
「あ、あの、」
「なんだ。言っておくがその届は俺が預かる、書かないし返しもしない」
「いや……あの……そうではなく……」
指を伝った熱が、見る間に全身に広がっていく。
今の自分はきっと真っ赤だ。きつく目を瞑り、私は上擦った声を漏らした。
「お夕飯を作りたいので、……放してもらえますか……っ!」