この世界からきみが消えても
第2章 代償

 昼休みの学食は多くの学生でごった返していて、賑やかな喧騒(けんそう)が空気を揺らしていた。

 2限が空きコマだったお陰で難なく座席を確保できたわたしは、券売機に列ができる前に食券を買って、早めの昼食をとっているところだった。
 いつもは感じない、心細さにも似た居心地の悪さを覚えながら。

 莉久がいないだけで景色は()せるし、時間の流れも遅くて味気ない。
 寂しい。
 会いたいけれど、いまの彼に会ってもいっそう苦しくなってしまうだろう。

(でも、莉久に触れれば……)

 突如として芽生えたこのサイコメトリー能力を使えば、彼の身に何が起きたのかを知ることができるはず。
 だけど、その可能性がぶら下がってきたことでかえって臆病になってしまっていた。

(……怖い)

 何であれ“知る”ことには少なからず勇気がいる。
 見たくない事実に晒される覚悟が必要だ。

『ううん、ちょっとびっくりしたっていうか。そんな話、いままで莉久から聞いたことなかったから』

 西垣くんから聞いた元カノ(藤井さん)の話とか、あんなふうにふいにわたしの知らない莉久を見ることになるかもしれない。
 よくも悪くも、知らない一面と向き合うことに何だか臆してしまい、気が引けていた。

 そんなことを考えながら伸びかけのラーメンをすすったとき、テーブルにトレーが置かれた。
 突然現れた大盛りのご飯や唐揚げに目を奪われていると、聞き知った声が降ってくる。

「……ここ、いい?」

 見上げた先にいたのは西垣くんだった。

「あ、うん。どうぞ」

 自分のトレーを少し手前に寄せつつ言うと、彼は空いていた向かい側の椅子に腰を下ろす。
 置き場のない荷物を預かり、長いソファー状になっているこちら側にわたしのものとまとめて置いておいた。

 混んでいるときはこうして相席することも珍しくないのだけれど、西垣くんがここを選んだのは、わたしと知り合いだからというだけではなさそうだった。

 少し離れたところで彼の友人たちがテーブルを囲んでいて、4人がけのそこはまだ席が空いているから。
 つい窺うように見つめると、彼がぽつりと切り出す。

「……あのさ、昨日はごめん」
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