この世界からきみが消えても
第3章 何度でも
今日は授業が午後からということもあり、午前の間に藤井さんの大学へと赴いた。
この間はたまたま出くわす形で会うことができたけれど、毎回そううまくはいかない。
彼女の学部も時間割も知らなければ、このキャンパスの見取り図だって分からない。
何だか敵陣のような気の抜けなさがあった。
闇雲に捜し回ってもらちが明かないため、ひとまず学生課に立ち寄ってみる。
「すみませんが、個人情報なので……」
せめて学部さえ分かれば、とささやかな期待を込めて尋ねてみたものの、いとも簡単に打ち砕かれた。
担当者の男性は困ったような表情を浮かべるけれど、そのスタンスは固く一貫しており、どんなに食い下がろうと徹底して教えてくれなかった。
当然と言えば当然だ。
学生のプライバシーを守る義務を全うしているだけ。
それでも、どうしたって落胆ともどかしさを禁じ得ない。
うなだれながら学生課を出たとき、ふいに声をかけられた。
「あの……」
どこか遠慮がちなその声に顔を上げると、見知らぬ女子学生が立っていた。
「由乃なら、もう辞めましたよ」
馴染みのない響きに一瞬戸惑ってから、それが藤井さんの下の名前だったことに思い至る。
そんな一拍を経てから驚愕が降ってきた。
「辞めた……!?」
「はい、就職決まったから。由乃から聞いてないですか? あれ、知り合いなんじゃ……?」
そう言われて思い出した。
確かに藤井さん自身、大学を辞めて就職することになったと語っていた。
だけど、まさかこんなタイミングでいなくなってしまうなんて。
「その就職先とか聞いてないですか? 家の住所とか!」
思わずまくし立てるような勢いで尋ねると、彼女は気圧されたのか、どこか引きつった笑みで首を傾げる。
「さ、さあ? これ以上は分かりません。ごめんなさい」
後半は目も合わせることなく言いきると、会釈を残して駆けていってしまった。
不審がられたかもしれない。
いまのはきっと藤井さんの友だちなのだろう。
彼女も学生課から出てきたようだったから、わたしが藤井さんについて問い合わせているのを偶然聞いて、好意で教えてくれたのだと思う。
何だか悪いことをしてしまった。
(でも、どうしよう。これじゃ藤井さんに会えない)
真相へと近づくための、唯一にして最大の活路だと思ったのにあっけなく空振った。
あの様子では藤井さんの友人から連絡先を聞くことも難しいし、サイコメトリングしようにも藤井さんの持ちものなんて残っていないだろう。