離婚とか愛とか~鉄の女社長は極上夫に絆される~
君は最高の妻
二日後の月曜日、朝一の会議を終えた絢乃は足早に社長室に戻ると第二事業部に電話をかけた。

ワンコールで受話器を取った社員に、唯華に代わるよう伝える。

『申し訳ございません、山城唯華さんはまだ出勤されていません』

九時出勤が決まりなのに、四十分も過ぎている。

父に叱られても態度を改めないのかと呆れた時、『今、出勤されました』と電話口の社員が言った。

「妹が迷惑をかけているわね。電話に出してもらえる?」

『はい。少々お待ちください』

保留中のメロディが消えると、悪びれた様子のない声がした。

『お姉ちゃん、なに?』

「社内では社長と呼んで敬語で話しなさい」

『私に威張れる立場じゃないでしょ。一昨日のこと、私はまだ許してないからね』

(こっちの台詞よ)

反省するどころか、被害者面するとは救いがたい。

できることなら妹に関わらずにインターンシップを終わらせたいが、絢乃が指導するようにと父から言われてしまったので仕方ない。

ただし社長業務をおざなりにして妹の面倒は見られないので、呼び出して注意するくらいしかできないが。

(私が言ったところで、この子が反省しないのはわかっているのに)

気を取り直して端的に用件を伝える。

「今すぐ、社長室に来なさい」

『面倒なんだけど。用があるならそっちから来ればいいじゃない』

「業務命令よ。従わないならあなたの内定は取り消します」

『わかったわよ。行けばいいんでしょ。横暴ね』

怒りまかせに電話を叩き切られ、受話器を耳から遠ざけた。

(一応、入社の意思はあるようね)

腕時計に視線を落とす。

次の社内会議の開始が二十分後だ。

その会議後は銀行へ行き、時間があれば昼休憩を取って午後は取引先に出向く。

入手したい土地の地権者にも会う約束をしており、夜は父と一緒に経済界の重鎮たちと会食予定である。

合間に山済みの稟議書を確認し、メールに返信して明日の会議資料にも目を通したい。

今日だけではなく今週は詰め込み気味のスケジュールだ。

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