離婚とか愛とか~鉄の女社長は極上夫に絆される~
腹を割って話そう
『お互いを知る努力をしないか?』

昴にそう提案されてから十日ほどが経った。

今日は月曜で十時から定例の戦略会議が開かれている。

広い会議室の前方にはグラフや表が映し出されたスクリーンがあり、馬蹄形に組んだ会議用テーブルに着いているのは絢乃の父を筆頭とした重役全員と各部署の部長、それとグループ会社の経営陣、合わせて二十四人だ。

各部の部長からの業務報告が一時間ほど続いている。

それを真剣に聞きながら時折、左隣の父の顔色を窺った。

会長の意見が絶対だ。

たとえ絢乃がそれでいいと思っても、父が首を横に振れば否決しなければならない。

つい最近、前任者と交代したばかりの営業部の部長が、ここ三か月の契約状況について説明していた。

その最中に父がボールペンのお尻で軽くテーブルを叩いた。

絢乃に向けての指示である。

(わかってるわよ)

「ちょっといいですか」と説明途中で口を挟む。

「当該病院の建て替えの件について、入札できなかった理由も合わせて説明してください」

後任の営業部の部長も五十代の男性だ。

「それにつきましては、ええ、厳しい入札が予想されておりましたので、その、そちらより他に注力して契約数を伸ばす方がいいかと……」

絢乃の指摘は一番避けたかった問題のようで、急にしどろもどろになった。

「私は相談されていませんが。誰の判断ですか?」

「それは、その、営業部の総意と言いますか……」

「そもそも建て替えの噂は二年前から出ていましたよね。入札ではなく特命で契約してもらえるように、病院側に働きかけてこなかったんですか?」

「大変申し訳ございません」

「この件について検証し、一週間後までに報告すること。二度と同じミスを繰り返さないでください」

厳しい口調で指示すると、営業部の部長が深々と頭を下げた。

「承知いたしました」

殊勝な態度だが、悔しそうに唇を噛んでいるのがチラッと見えた。

会長からの叱責ならきっとそんな顔をしないだろう。

娘のような年齢の絢乃に言われるからプライドが傷つくのだ。

(小娘のくせにえらそうにと思っていそうね)

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