初めまして皇帝陛下。どうぞ離婚してくださいませ〜3年放置された花嫁は離婚を突きつける〜
第十章 流通の改革
嫁してきてときは経ち、三年と数ヶ月が経っている。
「もう三年! 毎日主菜がお肉ばっかりだなんて飽きてしまうわ! お魚が食べたい!」
私は部屋で叫んだ。
すると、部屋を整えてくれていたマリアが驚いたように反応した。
「お魚……を食すのですか?」
「ええ、そう。アッヘンバッハ王国の王都は海が近かったから、魚を食べることも多かったのよ」
「うーんですが、ロイエンタール帝国は海に面していないですからねぇ……。ちょっと難しいんじゃないかと思うのですけれど……」
そう言って、不可能に近いことを……と言うニュアンスで返されてしまった。そして、部屋を整え終えると、私に声をかけて、部屋を去って行ってしまった。
ちなみに、ロイエンタール帝国の帝都では川魚を食する習慣もない。帝国内に川はあるのだが、帝都には遠く、帝国産の天然の川魚を腐らせずに運ぶ手段がない。なので、食用に出来ないのがその理由だった。
彼女が去ってからも、頭に浮かぶのは魚のことばかり。
そうは言っても、肉ばかりでなく、お魚も食べたいのよ。ああ、お魚が懐かしい!
生魚の前菜に、お魚のムニエル。お魚の塩竃焼きもいいし、アクアパッツァも美味しいわ!
私は、生家で楽しんだ食事を思い出す。
でもそうねえ。マリアの言うとおり、確かに帝国は海に面した土地はない。じゃあどこの海が近いかっていうと隣国のアレキサンドリア王国の港かしら。
でも確かにそこから馬車で運ぶとなると、魚も腐っちゃうわよね。
「うーん」
と私は頭を悩ませた。
──馬よりも速く走る動物に引かせたらどうかしら?
ピンと頭に走るものがあった。
家畜化可能で、馬よりも早い生き物……。
私は『深奥の図書館』を探る。すると、「いるじゃないの!」私の頭の中の引き出しからある種の生き物が導き出されたのだ。
それは、レッサードラゴンだ。
ドラゴン、といっても、恐ろしい怪物ではない。ドラゴンを馬ぐらいの大きさにしたような生き物で見た目は翼の生えたトカゲに近い。そしてこれが、馬が走る速度の十倍くらいの速さで飛ぶとかで、帝国の属国の砂漠地帯で繁殖されているはずだった。
これを帝都に導入したら、アレキサンドリア王国の港から魚を輸入出来ないかしら?
うーん。これを相談するとすると、やはりベッカー商会長かしら?
私は呼び鈴を鳴らす。
「お呼びですか?」
マリアが応じてやってくる。
「侍従長のアドルフを呼んでちょうだい。ベッカー商会長と面談したいの。その調整をして欲しいのよ。あと、もちろん陛下の許可もね」
「承知しました」
◆
「国の流通を変えたい?」
皇后であるコルネリアからの上奏をアドルフから聞いたヴォルフは執務中だったペンの動きを止めた。
「はっ。皇后陛下におかれましては、属国の砂漠地帯に生息するレッサードラゴンを我が帝国に輸入したいと。それにより、馬の約十倍は速く輸送が可能になるからとおっしゃっております」
「それは、我が国に入れて害をなすような獣ではないのか?」
ヴォルフは警戒した。仮にも、ドラゴンなどと名の付く獣だからだ。
「はい。皇后陛下がおっしゃるには、レッサードラゴンという恐ろしげな名とは違って、大きさは馬ほどの翼の生えたトカゲのような生き物のようで、人間によって飼い慣らすことも可能だそうです」
「ほう。それを、帝国に入れたいと」
「はい。いかがいたしましょう」
そう尋ねられて、ヴォルフは考える。
コルネリアは才知溢れ、物事を深慮することも出来る女だ。浅はかな考えで進上してきたわけではあるまい。
そう思い、彼女のことを信じることにした。
「許そう」
「はっ、かしこまりました」
そうして、コルネリアのアイディアは実行に移されることになったのだった。
「もう三年! 毎日主菜がお肉ばっかりだなんて飽きてしまうわ! お魚が食べたい!」
私は部屋で叫んだ。
すると、部屋を整えてくれていたマリアが驚いたように反応した。
「お魚……を食すのですか?」
「ええ、そう。アッヘンバッハ王国の王都は海が近かったから、魚を食べることも多かったのよ」
「うーんですが、ロイエンタール帝国は海に面していないですからねぇ……。ちょっと難しいんじゃないかと思うのですけれど……」
そう言って、不可能に近いことを……と言うニュアンスで返されてしまった。そして、部屋を整え終えると、私に声をかけて、部屋を去って行ってしまった。
ちなみに、ロイエンタール帝国の帝都では川魚を食する習慣もない。帝国内に川はあるのだが、帝都には遠く、帝国産の天然の川魚を腐らせずに運ぶ手段がない。なので、食用に出来ないのがその理由だった。
彼女が去ってからも、頭に浮かぶのは魚のことばかり。
そうは言っても、肉ばかりでなく、お魚も食べたいのよ。ああ、お魚が懐かしい!
生魚の前菜に、お魚のムニエル。お魚の塩竃焼きもいいし、アクアパッツァも美味しいわ!
私は、生家で楽しんだ食事を思い出す。
でもそうねえ。マリアの言うとおり、確かに帝国は海に面した土地はない。じゃあどこの海が近いかっていうと隣国のアレキサンドリア王国の港かしら。
でも確かにそこから馬車で運ぶとなると、魚も腐っちゃうわよね。
「うーん」
と私は頭を悩ませた。
──馬よりも速く走る動物に引かせたらどうかしら?
ピンと頭に走るものがあった。
家畜化可能で、馬よりも早い生き物……。
私は『深奥の図書館』を探る。すると、「いるじゃないの!」私の頭の中の引き出しからある種の生き物が導き出されたのだ。
それは、レッサードラゴンだ。
ドラゴン、といっても、恐ろしい怪物ではない。ドラゴンを馬ぐらいの大きさにしたような生き物で見た目は翼の生えたトカゲに近い。そしてこれが、馬が走る速度の十倍くらいの速さで飛ぶとかで、帝国の属国の砂漠地帯で繁殖されているはずだった。
これを帝都に導入したら、アレキサンドリア王国の港から魚を輸入出来ないかしら?
うーん。これを相談するとすると、やはりベッカー商会長かしら?
私は呼び鈴を鳴らす。
「お呼びですか?」
マリアが応じてやってくる。
「侍従長のアドルフを呼んでちょうだい。ベッカー商会長と面談したいの。その調整をして欲しいのよ。あと、もちろん陛下の許可もね」
「承知しました」
◆
「国の流通を変えたい?」
皇后であるコルネリアからの上奏をアドルフから聞いたヴォルフは執務中だったペンの動きを止めた。
「はっ。皇后陛下におかれましては、属国の砂漠地帯に生息するレッサードラゴンを我が帝国に輸入したいと。それにより、馬の約十倍は速く輸送が可能になるからとおっしゃっております」
「それは、我が国に入れて害をなすような獣ではないのか?」
ヴォルフは警戒した。仮にも、ドラゴンなどと名の付く獣だからだ。
「はい。皇后陛下がおっしゃるには、レッサードラゴンという恐ろしげな名とは違って、大きさは馬ほどの翼の生えたトカゲのような生き物のようで、人間によって飼い慣らすことも可能だそうです」
「ほう。それを、帝国に入れたいと」
「はい。いかがいたしましょう」
そう尋ねられて、ヴォルフは考える。
コルネリアは才知溢れ、物事を深慮することも出来る女だ。浅はかな考えで進上してきたわけではあるまい。
そう思い、彼女のことを信じることにした。
「許そう」
「はっ、かしこまりました」
そうして、コルネリアのアイディアは実行に移されることになったのだった。