初めまして皇帝陛下。どうぞ離婚してくださいませ〜3年放置された花嫁は離婚を突きつける〜

第十一章 母との思い出

「あ、薔薇が」

 私は庭を散策して楽しんでいると、ちょうどあの『ローザリア』が見事に咲き誇っていた。思わず私はその美しさに見惚れて足を止める。中々つぼみの量を付けなかった『ローザリア』も、ここまで育ったのかと思うと感慨深い。

 確かあの花は、皇帝陛下のお母さまの名前を冠した薔薇だったとクリスティーナさまから聞いていた。

 ──皇帝陛下。

 最初は衝撃的な夜だった。けれど、私の心と体を労ってくれたのか、その後しばらくは私の体を求めには来なかった。

 しかし、その後は陛下の仕事に支障がない限り、毎晩のように体を求められた。初めての夜以降、陛下が私を愛撫する手は、最初に比べて驚くほど優しいものに変った。そして、口づけも。

 そんな陛下の愛撫を受ける内に、私の体は陛下の手に慣らされていくように、次第に刺激を敏感に受けとめられるように変っていっていた。
『冷酷無慈悲な銀狼』、そう謳われる陛下だ。私は初め、酷い仕打ちを受けるかもしれないという恐れが心の片隅にはあった。夜も、私のことなどお構いなしに好き勝手にされるのかもしれないと思っていた。

 しかし、実際は違った。

 初めての日の夜からしても、彼は女性を喜ばせる手管に長けていて、それを使って私を喜ばせることを意識してくれていたようだった。それにもまして、次のときからは、より丁寧に私の反応を確認しながらことを進めてくれる。ささやきかけられる言葉も蕩けそうな程甘い。そうして甘く与えられる官能に私の体は慣れていった。

 そうして、時折朝まで共寝をご一緒する夜もある。それに、なにくれと私の希望を聞き入れてくれたりもする。月のものが来た日にも気分を害するわけでもなく、私の体調を気にしてくれたりもする。

 ──意外にお優しい方なのよね。

 そうして、ふと我に返る。

 夜のことばかり考えていたら、体が熱くなり、頬も耳朶も熱くなってしまった。

 真っ昼間からなんてことを思い出しているのだろう。

 そうだ、『ローザリア』だ。

 これを陛下にご覧に入れたいとクリスティーナさまがおっしゃっていたのだったわ。せっかく満開に咲いたんだもの。陛下を庭の散策にお誘いしようかしら。

 初めての夜の翌朝、とても私を労っていた様子の陛下。そんなに最初に思っていたような悪い方なのかもしれない。

 だったら、一年の子作りの期間が終われば解消する関係とはいえ、険悪に過ごす必要もないだろう。

 私はそう思い立って、陛下がいらっしゃるであろう執務室へ足を運ぶのだった。
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