初めまして皇帝陛下。どうぞ離婚してくださいませ〜3年放置された花嫁は離婚を突きつける〜
第十三章 街歩き
「愛している」という陛下からの衝撃の告白を私が受けて以来、以前にも増して陛下が私を求める頻度が増していた。そして、「愛している」と言う言葉も欠かさない。
その一方、私はといえば、恋心に似たような気持ちはあるものの、自分は愛しているとまで言えるのか分からないでいた。
体は慣れ、快楽には溺れている。だが、体と心は一緒なのかというと、私はそうでもなかったのだ。
「愛している、ってどういうことなのかしら……」
私は首を傾げる。
陛下が「愛している」と言うということは、多分、例の誓約書を置いておいて、子が出来ようが出来まいが私が欲しいということなのだろう、などと思案する。
──どうしましょう。
私は、あの三年間を許せるのかしら?
そう悩みつつも毎日は過ぎていく。昼間も陛下の書類の手伝いで顔を合わすし、夜は夜で体を重ねる。
私は相変わらず陛下から愛を囁かれ、抱かれる夜を過ごしていた。
「堕落しているわ……」
私は窓に肘を置いて外を眺めながら、そんな日々のことを呟いた。
とはいえ、子を産むのは王族貴族の責務でもある。堕落だ、怠惰だともいえないだろう。むしろ陛下は二十七歳。子がいないほうがおかしいのだ。
そうして日々、私たちは子作りに励んでいるというわけだ。誓約書の件もあることだもの。
あの誓約の件、私は今、本当に勝ちたいのだろうか。私には、明確にそうだと言えるほど、今の境遇に不満を感じなくなってきていた。
けれど、私も離婚を切り出してしまった手前、意地もあった。
そして、誓約を解消したいと申し出る、これという決定打もまだなかったのである。
そんなある日、ベッカー商会から連絡がやってきた。直接話したいので、伺いたいとの申し出だった。位は私の方が明らかに高いのだ。彼が出向いてくるのはいつものことだったし、当然といえば当然だった。
「だけれど、たまには帝都の街の様子も見てみたいわね……」
私はそう呟く。報告だけでは分からない、生の街の変化というものを見てみたかったのだ。
さすがに勝手に忍び出るのは不可能よね。
だったら許可をいただかないといけないわ。
そうして、私は許可を得るために陛下の執務室へと向かうのだった。
私は衛兵に陛下に用があると伝える。
すると、衛兵が扉をノックして、「皇后陛下が皇帝陛下にお目にかかりたいそうです」と伝える。
すると、すぐに陛下の声で「入れ」と許可が下りる。衛兵はドアノブを捻って私のために扉を開けてくれる。私は扉をくぐって部屋に入った。
中には、宰相のライマー側近のエミル、そして皇帝陛下がいた。
「何用だ」
皇帝陛下は書類に目を通しながら私に尋ねた。
「はい、ベッカー商会から面会の要望がありまして、直に帝都に行ってみたいと思います。そのお許しをいただきたく……」
言いかけた途端、皇帝陛下が顔を上げる。
「は? 皇后自ら商会に足を運ぶと? そんなもの、こちらに出向かせれば良いだろう」
信じられないといった表情をしている。
「街の様子も見たいのです。……視察……とでも言いましょうか。実際に目で見てみないと分からないこともございましょう?」
「……それもそうか……」
うーん、と額に手をあてて、考えるそぶりをする陛下。
「ふたりで行ってくればいいじゃん」
割って入ってきたのはエミルだった。
「「ふたりで!?」」
私と陛下の声が重なる。
「皇帝陛下は、皇后陛下が心配。皇后陛下は帝都の様子を見たい。なら、一緒に行ってくればいいんだよ」
彼は両手を後頭部に添えて、飄々とした様子で提案してくる。
「でしたら、正式な護衛兵の他に、衛兵の者を何人か変装させて警護に付かせましょう。そうすれば、身辺もご安心かと」
「……まあ、そもそもが『冷酷無慈悲な銀狼』とまで言われる陛下と一緒なんだから、心配も何もないと思うけどね」
──そうね。これほどまでに頼もしい護衛はいないわね。
エミルの言葉に私は、心強く思うのだった。
その一方、私はといえば、恋心に似たような気持ちはあるものの、自分は愛しているとまで言えるのか分からないでいた。
体は慣れ、快楽には溺れている。だが、体と心は一緒なのかというと、私はそうでもなかったのだ。
「愛している、ってどういうことなのかしら……」
私は首を傾げる。
陛下が「愛している」と言うということは、多分、例の誓約書を置いておいて、子が出来ようが出来まいが私が欲しいということなのだろう、などと思案する。
──どうしましょう。
私は、あの三年間を許せるのかしら?
そう悩みつつも毎日は過ぎていく。昼間も陛下の書類の手伝いで顔を合わすし、夜は夜で体を重ねる。
私は相変わらず陛下から愛を囁かれ、抱かれる夜を過ごしていた。
「堕落しているわ……」
私は窓に肘を置いて外を眺めながら、そんな日々のことを呟いた。
とはいえ、子を産むのは王族貴族の責務でもある。堕落だ、怠惰だともいえないだろう。むしろ陛下は二十七歳。子がいないほうがおかしいのだ。
そうして日々、私たちは子作りに励んでいるというわけだ。誓約書の件もあることだもの。
あの誓約の件、私は今、本当に勝ちたいのだろうか。私には、明確にそうだと言えるほど、今の境遇に不満を感じなくなってきていた。
けれど、私も離婚を切り出してしまった手前、意地もあった。
そして、誓約を解消したいと申し出る、これという決定打もまだなかったのである。
そんなある日、ベッカー商会から連絡がやってきた。直接話したいので、伺いたいとの申し出だった。位は私の方が明らかに高いのだ。彼が出向いてくるのはいつものことだったし、当然といえば当然だった。
「だけれど、たまには帝都の街の様子も見てみたいわね……」
私はそう呟く。報告だけでは分からない、生の街の変化というものを見てみたかったのだ。
さすがに勝手に忍び出るのは不可能よね。
だったら許可をいただかないといけないわ。
そうして、私は許可を得るために陛下の執務室へと向かうのだった。
私は衛兵に陛下に用があると伝える。
すると、衛兵が扉をノックして、「皇后陛下が皇帝陛下にお目にかかりたいそうです」と伝える。
すると、すぐに陛下の声で「入れ」と許可が下りる。衛兵はドアノブを捻って私のために扉を開けてくれる。私は扉をくぐって部屋に入った。
中には、宰相のライマー側近のエミル、そして皇帝陛下がいた。
「何用だ」
皇帝陛下は書類に目を通しながら私に尋ねた。
「はい、ベッカー商会から面会の要望がありまして、直に帝都に行ってみたいと思います。そのお許しをいただきたく……」
言いかけた途端、皇帝陛下が顔を上げる。
「は? 皇后自ら商会に足を運ぶと? そんなもの、こちらに出向かせれば良いだろう」
信じられないといった表情をしている。
「街の様子も見たいのです。……視察……とでも言いましょうか。実際に目で見てみないと分からないこともございましょう?」
「……それもそうか……」
うーん、と額に手をあてて、考えるそぶりをする陛下。
「ふたりで行ってくればいいじゃん」
割って入ってきたのはエミルだった。
「「ふたりで!?」」
私と陛下の声が重なる。
「皇帝陛下は、皇后陛下が心配。皇后陛下は帝都の様子を見たい。なら、一緒に行ってくればいいんだよ」
彼は両手を後頭部に添えて、飄々とした様子で提案してくる。
「でしたら、正式な護衛兵の他に、衛兵の者を何人か変装させて警護に付かせましょう。そうすれば、身辺もご安心かと」
「……まあ、そもそもが『冷酷無慈悲な銀狼』とまで言われる陛下と一緒なんだから、心配も何もないと思うけどね」
──そうね。これほどまでに頼もしい護衛はいないわね。
エミルの言葉に私は、心強く思うのだった。