氷壁エリートの夜の顔
第21話 「自分に嘘つくの、慣れてるのね」
その人が古美多に現れたのは、木曜の夜営業が始まってしばらく経ったころだった。
木曜日は、近所の常連さんが中心で、店内にはいつも穏やかな空気が流れる。
週の中でも比較的静かで、私にとっては心を少しだけ緩められる日でもある。
今夜も例外ではなく、18時を過ぎても席は半分ほどしか埋まっていなかった。
私はカウンターに入り、注文があればドリンクを作りながら、筑前煮の仕込みで人参やごぼうを刻んでいた。
カウンターの端には、祐介くんがいつものように座っていた。
このところ忙しいらしく、「今日は静かにご飯食べる日」と自ら宣言し、黙って箸を動かしている。
そんなときでも空気を重たくしないのが、祐介くんのすごさだと思う。
引き戸が開いた。
いつものように「いらっしゃいませ」と声をかけて──その瞬間、私は包丁を持った手を止めた。
立っていたのは……場違いなくらい華やかな女性だった。
ライトブラウンの髪が肩に流れ、上質なコートをまとった姿は、そこに立っているだけで場の空気を変えてしまうほどだった。まるで別世界の人が、間違ってこの店に迷い込んできたみたいだ。
木曜日は、近所の常連さんが中心で、店内にはいつも穏やかな空気が流れる。
週の中でも比較的静かで、私にとっては心を少しだけ緩められる日でもある。
今夜も例外ではなく、18時を過ぎても席は半分ほどしか埋まっていなかった。
私はカウンターに入り、注文があればドリンクを作りながら、筑前煮の仕込みで人参やごぼうを刻んでいた。
カウンターの端には、祐介くんがいつものように座っていた。
このところ忙しいらしく、「今日は静かにご飯食べる日」と自ら宣言し、黙って箸を動かしている。
そんなときでも空気を重たくしないのが、祐介くんのすごさだと思う。
引き戸が開いた。
いつものように「いらっしゃいませ」と声をかけて──その瞬間、私は包丁を持った手を止めた。
立っていたのは……場違いなくらい華やかな女性だった。
ライトブラウンの髪が肩に流れ、上質なコートをまとった姿は、そこに立っているだけで場の空気を変えてしまうほどだった。まるで別世界の人が、間違ってこの店に迷い込んできたみたいだ。