氷壁エリートの夜の顔
第7話 旅費の足しに
いつ渡そうか──。
結城さん宛の封筒を渡す機会を探しているうちに、気づけばもう2日が過ぎていた。
仕事でペアを組んでいるのだから、ふたりきりになる時間は十分にある。
それでも、業務時間中にプライベートな封筒を渡すのは、きっと彼が一番好まないやり方だ。そんな気がして、タイミングをつかみ損ねていた。
チャンスは、夕方に訪れた。
向かいの席の結城さんが、静かに息を吐いて天井を仰いだ。
それから視線を戻し、コーヒータンブラーに目を落とす。──あれは疲れを自覚して、コーヒーを飲みに立とうかどうか、迷っているときのサインだ。
最初のころ、私は彼をアンドロイドのようだと思った。疲れも迷いも見せず、隙のない仕事ぶりを貫く氷のエリート。
でも、今は少しずつ、その微細なニュアンスがわかるようになってきた。
結城さんの無表情にも、実は違いがある。きっと、白が200色あるように、彼の無表情も400通りくらいあるのだ。……私が読み取れるのは、そのうち8種類くらいだけど。
結城さん宛の封筒を渡す機会を探しているうちに、気づけばもう2日が過ぎていた。
仕事でペアを組んでいるのだから、ふたりきりになる時間は十分にある。
それでも、業務時間中にプライベートな封筒を渡すのは、きっと彼が一番好まないやり方だ。そんな気がして、タイミングをつかみ損ねていた。
チャンスは、夕方に訪れた。
向かいの席の結城さんが、静かに息を吐いて天井を仰いだ。
それから視線を戻し、コーヒータンブラーに目を落とす。──あれは疲れを自覚して、コーヒーを飲みに立とうかどうか、迷っているときのサインだ。
最初のころ、私は彼をアンドロイドのようだと思った。疲れも迷いも見せず、隙のない仕事ぶりを貫く氷のエリート。
でも、今は少しずつ、その微細なニュアンスがわかるようになってきた。
結城さんの無表情にも、実は違いがある。きっと、白が200色あるように、彼の無表情も400通りくらいあるのだ。……私が読み取れるのは、そのうち8種類くらいだけど。