氷壁エリートの夜の顔

第15話 ダブルルーム

 翌週の金曜、私は結城さんとともに、朝イチの新幹線で日本海側の町へ向かった。

 午前中は、クライアント本社でのミーティング。現地のブランド担当者や営業統括と意見を交わしながら、午後はその流れで、系列店舗や直営店をいくつか回る。プレゼンなどはないが、観察力と視点が試される──そんな一日だった。

 私は手元のノートにメモを取りつつ、ときおり横目で結城さんの様子を伺う。

 彼は、いつも通り無表情のまま、姿勢を崩さず、静かに現場を見て回っていた。だけど、スタッフ同士のやりとりや商品棚の配置などに対して、ふいに短く鋭い指摘を入れる。

──なるほど、これが「現地の肌感覚」ってやつか。妙に納得してしまった。

 午前中には青空が広がる気持ちのいい天気だったのに、午後になると少しずつ雲が広がり始め、視察を終えるころには、ぽつぽつと冷たい雨が肩に落ちてきた。

 激しい雨にはならなさそうだけど、傘を持っていなかった私たちは、腕をすぼめながら少し急ぎ足になる。

 少し不安になって、空を見上げた。
──雷、来るかな。
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