自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす
プロローグ
 十一月中旬、彼氏に高級ホテルのディナーに誘われた。
 彼氏とは初めて、フランス料理のコースをいただく。美しい盛り付けと香りに包まれた料理は、まるで芸術作品のようだった。
「今日はディナーに招待してくれてありがとう。明日で三年目だもんね」
 ソムリエのおすすめワインを一口飲んだあと、彼氏に感謝の意を伝えた。彼の笑顔を見るたびに、私の心は温かくなる。次第に彼との思い出が次々とよみがえってきた。
 彼氏と付き合って、明日は丸々三年目の記念日だ。一緒に過ごしたこれまでの時間を振り返ると、幸せな瞬間がたくさんあった。
 当然、私は一日早いが記念日のディナーだと疑わなかった。
「そのことなんだけど……。いや、食事が済んでからでいいや」
「え?」と問いかけると、彼は「とりあえず、食事を楽しもうよ」と微笑んだ。
 心臓が一瞬止まったように感じたが、彼は言いにくそうにしているが悪いことではないのかもしれない。
 もしかしたら……?
 もしかすると……!
 プロポーズをしてくれるのかもしれない。
 期待と不安が入り混じり、私の胸は高鳴る。
 私は彼氏のことが大好きだから、いつ結婚してもいいと思っている。彼との未来を想像しながら、心の中で祈るような気持ちだった。
「明莉のこれからの夢って何?」
 彼氏が真剣な眼差しを向けてきた。その問いに、私は一瞬戸惑った。
「これから先は明莉の答え次第なんだよ?」
 先程とは打って変わって、何となく嫌な予感がしてきた。プロポーズをしてくれるのかもしれないが、条件次第な気がする。
 私は海外を行き来する仕事をするのが夢だった。その夢がつい最近、軌道に乗り始めたのに、諦めなきゃいけないのかな。彼は元々、私の夢には否定的だったから。
 結婚という幸せを手に入れることももちろん大切なのだが、せっかく叶った自分の夢も失いたくない。どちらも大切だと思う。
「そうだなぁ? 私は……」
 言葉がうまく出てこない。彼の期待に応えたい気持ちと、自分の夢を守りたい気持ちが交錯する。
「俺はね、幸せな家庭を築くことなんだ。子どもは多ければ多いほど楽しいだろうし、自分が養うから奥さんは働かなくてもいい。とにかく、奥さんと子どもたちみんなで俺の帰りを待っててくれるような温かい家庭にしたい」
 その言葉に、私は心が締め付けられる思いだった。
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