自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす
第1章
 飛行機の窓から見える雲を眺めていると、ふわふわとした白い塊がまるで私の心の中を映し出しているかのように思えて、思わず溜め息が漏れる。
 雲の隙間から差し込む光は、私の心の奥底に潜む希望をかすかに照らすものの、振られた彼のことばかりが頭を駆け巡り、胸が締め付けられる。
 私、吉野明莉は長年付き合っていて、いずれは〝結婚する〟と思っていた彼氏に振られたばかり。思い出は甘く、どこか苦い。
 中学生の時にオーストラリアでのホームステイを経験したことを機に、世界中を飛び回る夢を抱いた私。
 大学で英語を学び、今は幼なじみの親友が経営する海外雑貨店のバイヤーとして働いている。仕事が軌道に乗り始め、やっと夢が叶った矢先に彼との別れが訪れた。
 彼は奥さんになる人には家庭に入ってほしいと望んでいたため、私の夢とは真逆の選択肢を提示してきた。意見の食い違いが私たちを引き裂いた。
 もしも、出された選択肢を間違えなければ、私は幸せになれたのだろうか? あの時、「専業主婦になる」と答えていたら、今の私は違ったのだろうか。
 だけれど……自分の夢が現実となった今、結婚を理由に辞めたくなかった。心の中には矛盾した感情が渦巻いている。
「はぁっ」と、再び溜め息が出る。
 これから人生二回目のフィンランドでの買い付けに出かけるというのに、気分がまったくのらない。
 窓の向こうには無限の空が広がり、私の心を取り巻く雲もその一部なのに、何故かその美しさに心が癒されることはない。心の中のモヤモヤが晴れることはないまま、私は再び窓の外を見つめる。
 目的地の空港に着くと、落ち込み気分のままフラフラと歩いていた。周囲の活気ある雰囲気も、私の心の中には届かない。
 楽しみにしていたフィンランドの地にいるというのに、心はどこか別の場所にいて、彼との別れが頭を離れなかった。
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