真夜中のおくりもの - お夜食お届けします - 【短編集】

第3夜

俺には、その声がはっきり聞こえたんだ。

深夜12時を過ぎても、
俺は自室のデスクトップパソコンに向かって絵を描いていた。
俺の職業は漫画家とイラストレーターだ。

外から、時折、ビュオー、と言う強い風の音と車とバイクが通って行くブウウと言う音がする。
この鉄筋コンクリート造りの1DKアパートは、壁は薄くはないが、
外の音がけっこう聞こえるのだった。

世界が静かに眠っているからだろうか。
小さな音ひとつひとつが気になる。

俺が今、描いているイラストは小さな子どもたちに大人気のヒーローで、赤いボディスーツを着たムキムキで長身で目のぱっちりとしたイケメンだった。
アニメにもなっているし、今度、実写映画にもなるらしい。
俺の仕事は今、とんとん拍子だった。
だから、
俺は強い心、正義の心を持って、
このヒーローを描きつづけなければならない。

エアコンの低いブゥンと言う音が気になる。今夜もとても寒い。部屋が極寒だ。だが、
このヒーローはきっと「寒い」なんて文句は言わないだろうし、
自分の着ているものを寒がっているひとに分け与えるだろうから、
俺も弱音は吐かない。強い、強い気持ちを持って絵を描きつづける。
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