幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】

第22話 失いたくはないから【逢生】

奏花(そよか)梶井(かじい)と会っていたのはわかっていた。
許す?
そんなわけない。
奏花に嫌われたくないから我慢しただけだ。

「ひとつ大人になったな」

「頑張ったと思うぞ」

唯冬(ゆいと)知久(ともひさ)は俺のイライラした音に気づいたらしく、理由を聞いて褒めてくれた。
さっきの演奏はひどい演奏だったのに褒められた。
優しい言葉をかけてくる二人に俺は『ありがとう、親友』という目で見ると唯冬は首を横に振った。
冷たい。

「知久が男の嫉妬はみっともないって俺に言うからだよ」

「そこまでは言ってないだろ?余裕をみせろって言っただけだ」

「同じことだよ」

チューニングしながら、溜息をついた。
長い溜息のような音。
音が悪い。
チェロが悪いわけじゃない。
鬱鬱としながら、弓を動かした。
コンサートまであと少し。
この共演が終われば、梶井の顔をみなくて済む。
やる気があるのかないのか、今日もあいつは遅刻してきた。
昔、付き合っていた女が死ぬとか死なないとかでもめたらしい。
練習の合間にミネラルウォーターを口にした。
そして、引っ越しの相談をする。
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